「オールド・ジーランド(Old Zealand)」はどこにあるの?
地図を眺めると、「ニュー(New)」のつく地名が世界中に点在していることに気づく。 ニュー・ブランズウィック、ニュー・ハンプシャー、ニュー・オーリンズ…。
こうした名称は、探検家や入植者が自国の地名を新たな土地に持ち込み、先頭に「ニュー」を付けて名づけたことに由来する。 しばしばその土地は、元の地名とはまったく似ても似つかない場所であることが多い。
たとえば「オールド・ジャージー(Old Jersey)」は、イギリス海峡に浮かぶ人口の少ない島で、乳牛で知られている程度だ。 このような“地名の輸出”は、まさに西洋の植民地主義の象徴的な慣習のひとつといえる。
その中でも特に影響力を持ったのが、 オランダ東インド会社(Dutch East India Company) の活動である。 彼らの交易網は世界中に広がり、その結果、オランダ語に由来する地名が世界各地に見られるようになった。
オランダ人の探検家や植民地行政官たちは、
「ニュー・ネザーランド(New Netherland)」――現在のニューヨーク州、
「ニュー・アムステルダム(New Amsterdam)」――現在のニューヨーク市、
「ニュー・ハーレム(New Haarlem)」――現在のハーレム地区、といった地名を残した。
その後、イギリス人がこれらを征服し、オランダ由来の地名の多くは英語名に置き換えられた。 「ニュー・アムステルダム」が「ニューヨーク」になったことは、歌の歌詞(“Even old New York was once New Amsterdam…”)にも残っているほど有名だ。 一方、「ニュー・ホラント(New Holland)」はやがて「オーストラリア(Australia)」へと改名されたが、「ニュージーランド(New Zealand)」だけはそのオランダ的ルーツを今も保持している。
ニュージーランドの由来:オランダの海洋州「ゼーラント」
1642年12月、オランダの航海者 アーベル・ヤンスゾーン・タスマン(Abel Janszoon Tasman) がヨーロッパ人として初めてニュージーランド南島を発見した。 彼の報告をもとに、オランダの地図製作者たちはこの新しい土地に、 オランダ南西部の海洋州「ゼーラント(Zeeland)」 の名を冠した。 つまり、“ニュー・ジーランド(New Zealand)”とは「新しいゼーラント」という意味なのだ。
この 「オールド・ジーランド(旧ゼーラント)」 は、ベルギーの都市アントワープの北西に位置し、オランダ国内でもっとも海に近い地域のひとつである。 干拓地と水路が広がるゼーラント州から、ニュージーランドまではおよそ17,700キロメートル(約11,000マイル)もの距離がある。 地球上で最も離れた2地点の距離が約20,000キロメートルであることを考えると、 ニュージーランドはまさにゼーラントから地球の裏側に位置しているといえる。
この壮大な距離感こそ、17世紀における オランダ東インド会社の世界的な航海力と影響力を象徴しているのだ。

