ザダルの海のオルガン — 波が奏でる自然の音楽
クロアチアのアドリア海沿岸に位置する港町ザダル(Zadar)は、ローマ時代の遺跡や美しい夕陽で有名ですが、近年最も注目を集めている名所のひとつが「海のオルガン(Sea Organ / Morske orgulje)」です。
このユニークな建築作品兼楽器は、2005年に建築家ニコラ・バシッチ(Nikola Bašić)の設計で公開されました。ザダル旧市街の西端、海に面したリヴァ(遊歩道)に設置され、自然と芸術が融合したサウンドインスタレーションとして世界的に知られる存在となっています。
仕組みとデザイン
海のオルガンは、一見すると大理石でできた幅広い階段が海へと続いているだけに見えます。しかし、その下には巧妙な管楽器のシステムが隠されています。
- 階段の下に埋め込まれたパイプに海水が押し寄せ、波の力で空気が送り込まれる
- その空気がパイプを通ることで、自然の風に似た「音」が生まれる
- 音階は完全にランダムですが、不思議と調和のとれた和音を奏でます
音響設計は音楽家イヴィツァ・スタマッツ(Ivica Stamać)が担当し、クロアチア伝統音楽「クラパ(Klapa)」に基づく和音を選んでいます。そのため、響く音にはどこか郷愁を誘う旋律があり、訪れる人々を魅了します。
体験としての魅力
海のオルガンは「ただの観光名所」ではなく、五感で楽しむインスタレーションです。
- 視覚:夕暮れ時、アドリア海と階段に腰掛ける人々の姿はまるで劇場の一幕のよう
- 聴覚:波の強弱やリズムによって刻々と変わる音楽は、訪れるたびに違う体験を提供
- 感覚:潮風を浴びながら響く低音や高音が心地よく、癒しの時間を演出
旅行者の中には、日が沈むまで長時間ここに座り、波と音に耳を傾ける人も多いです。
「太陽への挨拶」との共演
海のオルガンのすぐ隣には、同じくニコラ・バシッチによるインスタレーション「太陽への挨拶(Greeting to the Sun)」があります。
- 直径22メートルの円形広場に、300枚のソーラーパネルを敷き詰めた作品
- 昼間に太陽光を蓄え、夜になると色鮮やかなLEDライトが点灯し、幻想的な光のショーを展開
夕暮れ時には「世界一美しい夕陽」と称されるザダルの夕日を眺め、夜は海のオルガンの調べと光のインスタレーションを同時に楽しめる、まさに感覚の饗宴です。
まとめ
ザダルの海のオルガンは、建築、音楽、自然が一体となった世界的にも珍しい芸術作品です。波の力だけで奏でられる音楽は常に新しく、二度と同じメロディには出会えません。隣接する「太陽への挨拶」とあわせて訪れることで、ザダルの魅力を最大限に体験できるでしょう。