チェコ南部の町チェスキークルムロフは、美しい旧市街と壮大な城が世界遺産にも登録されている人気の観光地です。その城には、ちょっと変わった名物がいます――なんと「クマ」です。なぜヨーロッパの城に、クマがいるのでしょうか?
ローゼンベルク家と「クマ」の紋章
この習慣の起源は、16世紀にチェスキークルムロフを支配していたローゼンベルク家にさかのぼります。ローゼンベルク家の紋章には「五弁のバラ」とともに、盾を支える2頭のクマが描かれています。伝承によれば、ローゼンベルク家はイタリアの名門オルシーニ家の血を引くとされていました。イタリア語で「orsa(オルサ)」はクマを意味し、このつながりを示すためにクマを紋章に取り入れたのです。
その象徴を実際の姿で示すため、城にクマを飼う伝統が生まれました。こうして「城のクマ(Castle bears)」は、チェスキークルムロフ城の歴史と文化の一部となっていきました。
400年以上続く「クマの堀」
史料によると、城でクマが飼われていた記録は16世紀のヴィルヘルム・フォン・ローゼンベルクの時代に遡ります。現在のクマ堀(ベア・モート)が整備されたのは17世紀初頭で、1707年にはすでに4頭のクマが飼育されていたことが記録に残っています。その後、途絶える時期はあったものの、19世紀以降は再びクマが城のシンボルとして飼われ続け、20世紀には寄贈や動物園からの移入によって頭数が維持されました。
現代のクマたち
現在(2025年)、チェスキークルムロフ城の堀には3頭のクマが暮らしています。子どもたちに人気の「クマ祭り」も毎年開催され、観光客にとっても「世界遺産の城にクマがいる」というユニークな魅力になっています。
一方で、動物福祉の観点からは「城の堀でクマを飼う伝統をどう継続するか」が議論になっており、保護団体や動物園と連携しながらより良い環境を模索する動きも進められています。
観光で訪れる際の楽しみ方
チェスキークルムロフ城を訪れると、第一と第二の中庭を結ぶ橋の下に「クマ堀」があります。そこからのぞくと、ゆったりと過ごすクマの姿を見ることができます。城の壮麗な建築と並んで「なぜクマ?」という驚きが、観光体験に一層の印象を残してくれるでしょう。