アンドレ・ブルトン(André Breton, 1896–1966) は、フランス出身の詩人・批評家であり、20世紀芸術運動の中でも最も影響力の大きいシュルレアリスム(Surrealism)の創始者の一人です。**「シュルレアリスム宣言(Manifeste du surréalisme, 1924)」**を発表し、夢や無意識を芸術表現の中心に据える革新的な思想を提示しました。
基本情報(Quick Facts)
生誕:1896年2月18日、フランス・タンシュブレ(Tinchebray)
死没:1966年9月28日、フランス・パリ(享年70歳)
関連運動:ダダイスム、シュルレアリスム、自動記述(automatism)
主要な雑誌活動:『Littérature』(1919年、ルイ・アラゴン、フィリップ・スーポーと創刊)
代表作:
- Les Champs magnétiques(1920, 『磁場』)
- Manifeste du surréalisme(1924, 『シュルレアリスム宣言』)
- Nadja(1928, 『ナジャ』)
- L’Immaculée Conception(1930, ポール・エリュアールと共著)
- Les Vases communicants(1932, 『交通壺』)
- L’Amour fou(1937, 『狂気の愛』)
生涯と思想の形成
ブルトンは医学を学ぶ過程で精神病理学に関心を持ち、1910年代にフロイトの精神分析理論を読んだことが彼の芸術観に決定的な影響を与えました。1921年にはウィーンでフロイト本人とも会見し、無意識の探求こそ創造の源泉であるという信念を深めました。
第一次世界大戦後、ダダイスムの運動に参加し、破壊的で反芸術的な姿勢を共有しましたが、単なる否定ではなく「創造的な表現」を模索。その中で誕生したのがシュルレアリスムでした。
シュルレアリスム宣言(1924)
ブルトンは1924年に発表した 「シュルレアリスム宣言」 で、運動の理念を次のように定義しました。
「シュルレアリスムとは、純粋な心的自動作用であり、理性の統制や道徳的・美的先入観の介入なしに、思考の実際の働きを表現することを意図するものである。」
この宣言は、夢と現実、理性と狂気、客観と主観の境界を取り払い、“超現実(surrealité)”の世界を芸術として表すことを目指すものでした。
主な作品とテーマ
- 『ナジャ』(Nadja, 1928) 日常の出来事と心理的逸脱を融合させた小説で、現実と夢の境界を曖昧にする実験的作品。
- 『無原罪の受胎』(L’Immaculée Conception, 1930) ポール・エリュアールと共著。精神疾患の言語的表現を試み、狂気と詩の関係を探究。
- 『交通壺』(Les Vases communicants, 1932) 夢と現実の連続性を論じた理論的著作。
- 『狂気の愛』(L’Amour fou, 1937) 愛と欲望の中に潜む無意識的真実を探る作品。
政治と活動
1930年代、シュルレアリストたちは政治的関与を深め、ブルトンも共産党に入党しました。しかし1935年には決裂し、党を離脱。それでもマルクス主義的な理想を放棄することはありませんでした。
第二次世界大戦中、ドイツ占領下のフランスを逃れアメリカへ亡命。1942年にはイェール大学でシュルレアリスム展を開催し、再び宣言を発表。戦後1946年にフランスへ戻り、翌年も展覧会を開催しました。
晩年と評価
ブルトンは1966年にパリで亡くなりました。生前からカリスマ的リーダーとしてシュルレアリスムを牽引し、その厳格な姿勢から運動内部での対立や分裂も招きましたが、「夢と現実の融合」という芸術理念は、20世紀以降の文学・美術・映画に大きな影響を与え続けています。
まとめ
アンドレ・ブルトンは、シュルレアリスムを理論化し推進した中心人物であり、彼の思想と著作は今なお芸術・文学において重要な意味を持ちます。詩人、批評家、そして「夢と無意識の探求者」としてのブルトンの姿は、20世紀モダニズムの象徴的存在といえるでしょう。