ヨーロッパという名前はどこから来た?—語源・神話・古代地理から探る

コラム·
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私たちが当然のように使う「ヨーロッパ」という呼称は、地理学者が「大陸は6つか7つか」と議論するずっと前から“概念”として存在していました。古代ギリシア人は世界を ヨーロッパ・アジア・リュビア(=北アフリカ) の三つに分け、2世紀の地理学者プトレマイオスも『地理学指南(Geōgraphikē hyphēgēsis)』でこの区分を採用しています。ヘロドトスはヨーロッパとアジアの境界線をどこに置くかを論じ、古代人の世界観を伝えてくれます。つまり「ヨーロッパ」という観念は非常に古く、その呼び名も長い時間をかけて定着したのです。

語源説①:ギリシア語「広い」(eurys)+「顔・まなざし」(ops)説

しばしば挙げられるのが、ギリシア語 eurys(広い)ops(顔/目) を合わせた民間語源です。「広く見渡す」「広い岸辺」といったニュアンスから、海上から見える大きな“本土(mainland)”を指したのではないか、という解釈。古代ギリシア人にとってエーゲ海の向こうに広がる大地は、地中海世界とは気候も地形も規模も異なる“広大な北方の陸塊”でした。この説明は学界で定説とまでは言えませんが、有力な候補の一つです。

語源説②:メソポタミア語源(セム語派)説

もう一つ広く参照されるのが、古代メソポタミアのアッカド語 erebu(沈む/日が沈む=西) に由来するという説です。メソポタミアから見れば太陽は西へ沈みますから、西方世界=ヨーロッパという対応が成り立つ、という考え方。対になる形で、アジアは asu(昇る) に由来すると説明されることもあります。こちらも断定はできないものの、言語学的・文化史的に説得力を持つ仮説です。

語源説③:ギリシア神話の「エウロペー(Europa)」に由来

神話起源とする見方も根強いです。最も有名なのは、フェニキアの王女 エウロペー(Europa) が白い牡牛に化けたゼウスにさらわれ、クレタ島へ連れ去られる物語。彼女はやがてミノス王らを産み、クレタの地に王統を残したと語られます。この神話のエウロペーにちなんで大陸名が広まった、または逆に大陸名から女神名が説明された可能性も指摘され、いずれが先かは断定できません。とはいえ、神話と大陸名が密接に結びついていたのは確かです。

ミニ知識:ギリシアの2ユーロ硬貨の図柄は、スパルタのモザイクに基づく 「エウロペー誘拐」。現代の通貨にも神話が刻まれています。

史料に見える「ヨーロッパ」

地名としての Eurṓpē の早い用例は『ホメロス讃歌』にまで遡るとされ、古代ギリシアでは既に“世界の一部”を指す地理用語として使われていました。後世になると境界の引き方(たとえばドン川か、さらに東か)をめぐる議論は続きますが、ヨーロッパを独立した世界区分とみなす考えは一貫して生き続けます。

結論:決定版はないが、強靭に生き残った名前

語源をめぐっては 「ギリシア語説」「セム語(アッカド語)説」「神話起源説」 が併存し、いずれも完全に証明されたわけではありません。むしろ重要なのは、古代以来「ヨーロッパ」という名が 概念・神話・言語 の層をまたいで共有され、地中海世界の想像力と政治・文化の歴史のなかで “意味を増殖させながら定着した” という事実でしょう。だからこそ、今日に至るまでこの名は強靭に生き残り、私たちの地図と日常語に刻まれているのです。

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