コトルの街と城壁 — 石に刻まれた歴史
アドリア海沿岸に位置するモンテネグロの古都コトル(Kotor)は、赤い屋根と中世の街並みが今も残るユネスコ世界遺産の町です。サン・ジョヴァンニ山の麓に広がり、スクリュダ川とグルディッチ泉に守られたコトルは、長い歴史の中で戦争や包囲、地震を乗り越えてきました。その象徴が、町を取り囲む巨大な城壁と要塞群です。
コトルの城壁と要塞
コトルの城壁は町と山を取り囲むように築かれ、全長は約4.5km、高さ最大20m、厚さは2〜16mにも及びます。城壁は三角形の町の形状に沿って山へと登り、標高約280mのサン・ジョヴァンニ要塞へと続きます。中には40以上の監視塔や兵舎、水槽、弾薬庫が配置され、かつては自給自足可能な要塞都市でした。
城壁には三つの主要な門(海の門、川の門、グルディッチ門)があり、夜には閉ざされ外部からの侵入を防ぎました。この堅牢な防御のおかげで、コトルは数世紀にわたり征服を免れた歴史を持ちます。
登山と絶景
コトル旧市街から山頂の要塞までは「コトルのはしご」と呼ばれる約1,400段の石段が続きます。最初の休憩地点・聖ロッコ礼拝堂からは街全体が一望でき、その眺めに魅了されながらさらに上を目指す人も多いです。途中には「聖母マリアの健康教会」や小さな礼拝堂が点在し、撮影スポットとしても人気です。石壁に開いた無数の小窓からは、中世の兵士たちが敵を監視していた当時の雰囲気を感じることができます。
山頂のサン・ジョヴァンニ要塞からは、碧いコトル湾とオレンジ色の屋根が広がる旧市街を一望でき、アドリア海有数の絶景が広がります。対岸には、かつて人が暮らしたシュピリャリ村の廃墟も見下ろせます。
廃村シュピリャリと旧道
サン・ジョヴァンニ要塞の裏手には、第二次世界大戦中に放棄されたシュピリャリ村の跡があります。現在は石造りの家の基礎や聖ゲオルギウス教会が残るだけですが、当時の農村生活を偲ぶことができます。ここは19世紀に築かれた旧道を通じて内陸部と結ばれており、かつては市場に農産物を運ぶ重要な拠点でもありました。
コトル観光の魅力
- 旧市街散策:石畳の路地や小広場、カフェや雑貨店が立ち並ぶ中世の雰囲気を堪能できます。
- 聖トリフォン大聖堂:1166年に献堂されたロマネスク建築の大聖堂は、コトルの象徴的建築物。
- サン・ジョヴァンニ要塞登山:往復1〜2時間の登山で絶景に出会える人気体験。
- ベイ・オブ・コトル:湾を巡るクルーズでは、美しい入り江や周囲の山並みを海上から楽しめます。
まとめ
コトルは、堅牢な城壁と要塞、美しい中世都市景観をあわせ持つ「アドリア海の宝石」と呼ばれる町です。歴史と自然が融合したこの場所では、石に刻まれた数世紀の物語を歩きながら感じ取ることができます。観光客にとって必ず訪れるべきハイライトのひとつでしょう。