カルサイト補償深度(CCD) (炭酸塩補償深度)とは、海洋学における概念で、 「海底における炭酸カルシウム(CaCO₃)の沈積速度と溶解速度が釣り合う深さ」 を指します。 つまり、海水中に沈降してくる炭酸カルシウム(石灰質)の粒子が、 それと同じ速さで溶けて消えていく境界線――そこがCCDです。
どうやって炭酸カルシウムが海に入るのか
炭酸カルシウムは、主に以下のような経路で海に供給されます。
- 河川によって陸地から運ばれるカルシウムイオンや炭酸イオン
- 深海熱水噴出口(hydrothermal vents)からの鉱物供給
- 海洋生物(プランクトン、貝、サンゴなど)の殻や骨格の分解
これらが海中で再び沈降し、海底に蓄積されることで「炭酸塩堆積物(carbonate sediment)」が形成されます。
CCDの役割:沈積と溶解のバランス
深海では水圧が高く、温度が低く、またCO₂濃度が高いため、 炭酸カルシウムは深くなるほど溶けやすくなります。
ある深さ(CCD)を境に、
- それより浅い場所では → 炭酸カルシウムが沈積して海底に残る
- それより深い場所では → 溶解が沈積を上回り、石灰質堆積物は残らない
という現象が起こります。
そのため、CCDより浅い海底は「炭酸塩軟泥(carbonate ooze)」と呼ばれる白色の堆積物で覆われています。 これは、微小生物(有孔虫やココリスなど)の石灰質の殻が堆積してできたもので、 地球の海底の約半分を覆っているとされています。
CCDの深さと海域による違い
一般的に、炭酸塩堆積物は 深度約4,500メートル(約14,800フィート) より浅いところに分布します。 それより深くなると、石灰質物質は急速に溶けてしまいます。
また、CCDの深さは海域によって異なります。
- 大西洋(Atlantic Ocean)では、CCDが太平洋(Pacific Ocean)より約500メートル(約1,600フィート)深い。 これは、大西洋では炭酸カルシウムの供給量が多く、溶解速度が比較的遅いためです。
- 太平洋では逆に、CO₂濃度が高く酸性度が強いため、カルサイトがより浅い深度で溶け始めます。
地質時代における変動
CCDの深さは地球の歴史の中で数千メートル単位で変化してきました。 これは、気候変動・海洋の炭素循環・生物活動の変化などにより、 炭酸塩の供給量・生産性・溶解速度が時代ごとに異なってきたためです。 研究者は堆積岩やコア試料の分析を通じて、 過去のCCDの位置を推定し、古環境(古海洋)のCO₂濃度や温度変化を復元しています。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | カルサイト補償深度(Calcite Compensation Depth, CCD) |
| 定義 | 炭酸カルシウムの沈積速度と溶解速度が等しくなる深さ |
| 主な要因 | 水温・水圧・CO₂濃度・供給量・生物活動 |
| 平均深度 | 約4,500m(海域によって変化) |
| 最深の例 | 大西洋では太平洋より約500m深い |
| 重要性 | 海底堆積物の分布・炭素循環・古環境変動の指標となる |
メモ
CCD(炭酸塩補償深度)が浅くなると、深海の炭酸塩が溶けやすくなり、海洋全体の炭素バランスに影響を及ぼします。そのため、現代の 海洋酸性化(ocean acidification) の進行も、将来的にCCDを浅く押し上げる可能性があると懸念されています。


