オックスフォード大学の ボドリアン図書館(Bodleian Library) は、ヨーロッパでも最も古い図書館のひとつであり、イギリスでは大英図書館に次ぐ規模を誇ります。蔵書数は1300万点以上にのぼり、学術研究者にとって欠かせない存在であると同時に、その壮麗な建築群は多くの観光客を惹きつけています。オックスフォード大学に属する数多くの図書館の中で、大学の中枢的な存在となっているのがこのボドリアン図書館です。
初期の歴史
オックスフォード大学における最初の本格的な図書館は、1320年頃に聖母マリア教会の一室に設けられました。その後、グロスター公ハンフリー(ヘンリー5世の弟)が280冊以上の貴重な写本を寄贈したことを契機に、大学は新しい図書館を建設し、1488年に「デューク・ハンフリー図書館」が開館しました。これが現在のボドリアン図書館の最古の部分となっています。
しかし、宗教改革の影響で1550年には蔵書が処分され、図書館は衰退してしまいます。その荒廃を救ったのが、外交官でありメルトン・カレッジのフェローでもあった トマス・ボドリー卿(Sir Thomas Bodley, 1545–1613) でした。1598年に再建を始め、自身の蔵書や寄贈を基に1602年に新しい図書館を開館。さらに1610年にはロンドンの印刷業組合と協定を結び、イングランドで出版された書籍を必ず1部納本させる「納本制度」の基盤を築きました。これにより、ボドリアン図書館は今日まで続く「法定納本図書館」としての役割を担うことになりました。
発展と拡張
ボドリーの死後も拡張は続き、17世紀には「スクールズ・クアドラングル」や「セルデン館」などが加わり、学問と研究の中心地となります。蔵書の貸し出しは禁止されており、1645年にはチャールズ1世でさえも貸し出しを拒否されたという逸話が残っています。
18世紀には医師ジョン・ラドクリフの遺贈により、オックスフォードを象徴する円形の建物 ラドクリフ・カメラ が1737〜1748年に建設されました。当初は独立した図書館として運営されましたが、19世紀にボドリアンの管理下に入り、現在は研究スペースとして利用されています。
19世紀に入ると蔵書は急速に増え、1849年には22万冊の書籍と2万1千点の写本を所蔵するまでに成長しました。地下書庫や新館の建設によって保管スペースを拡大し、20世紀には利用者も大幅に増加。1937〜40年には建築家ジャイルズ・ギルバート・スコット設計による「ニュー・ボドリアン図書館」が完成しました。
現代のボドリアン
1975年にはクラレンドン・ビルを含む周辺施設も取得し、大学の中心的なエリア全体がボドリアンの管理下に置かれるようになりました。さらに21世紀に入り、ニュー・ボドリアンは全面改修を経て、2015年に ウェストン図書館(Weston Library) として再開館。一般公開スペースや展示室を備え、学術研究者だけでなく広く市民や観光客に開かれた場となっています。
今日でもボドリアン図書館は「The Bod(ザ・ボッド)」の愛称で親しまれ、世界中の学生や研究者が利用する学びの場であり続けています。その長い歴史と伝統は、オックスフォード大学の学問的権威を象徴する存在といえるでしょう。